廃 屋 の す み れ | |
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信州、ある神社の裏の雑木林を抜けると、一軒の農家の小屋にでくわしました。畑に転がったさびた農機具に枯れ草がからまっています。 かすかに残る踏み跡をたどって隣の母屋の正面に回ると、人の気配はなく、すでに廃屋となっていました。 しかし、突然の訪問者を迎えてくれたのは、前庭一面に広がるソロリアの仲間、プリセアナの群落。 かって、前庭に植えられたであろう一鉢のすみれが、これほどの群落になるのに、どれほどの季節が流れたのでしょう。人がいなくなって、どれほどの時間が過ぎたのでしょう。 |
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20年も前の話ですが、以後、不法投棄の現場でソロリアを見ることが時たまありました。山奥深く入る林道を歩くと、とんでもない斜面に不法投棄され、回収のことを考えると「何もこんな所に・・・」と思いますが、不法投棄にはルールなどないのでしょう。そんなところにもソロリアを見たことがありますが、引越し時、不要になった家具類といっしょにプランター、鉢などが投棄され、その中にソロリアの株や種子が含まれていたのかもしれません。 私も何品種かのソロリアを栽培していますが、比較的丈夫で、次々と閉鎖花を付け、繁殖力旺盛な姿を見ていると、不法投棄でその分布域をゲリラ的に広げていく代表的な植物なのかもしれません。 人工交配ではソロリアを親とした交配種が何品種か作出されていますが、いつの日か、ソロリアの仲間が自然界で日本のすみれと交配した株を見る日もそう遠くないかもしれません。 かってテレビで、九州の山村に住む人たちが、ダム建設のために立退きさせられる映像を見たことがあります。行政がやったことは、住民が二度と家に戻って生活できないように、流し台を叩き割ることを保証金支払いの一つの条件としたことでした。ある老人が住みなれた家から新居への引越しの日、息子がトラックでおじいさんを迎えに来ました。一度トラックに乗ったおじいさんがシャベルを持って庭に廻り、掘りおこした花がアップになりました。手に握られていたのはヒゴスミレでした。 新居の庭に植えられたであろうヒゴスミレ・・・いったいこの花にどのような想いがおじいさんにあったのか、知る由もありませんが、我家のすみれ棚を前にして、もし、自分が最後の一鉢を選ぶとしたらどのすみれを選ぶかなと考えたことがあります。 その後、九州のこの村の住民の何組かは村に戻り、沢から水をホースで引き、逞しく生活されている様子がテレビで流れたことがあります。電気はなくとも、くったくのない山の人の笑顔に拍手したものでした。 信州のソロリア(プリセアナ)の咲く廃屋を前にして、かって見たテレビのシーンを思い出し、この家の人も、もし引越していたら新居にどの花を移したか・・・ソロリアもその中に含まれていたのかなと思いながら、すみれにカメラをむけました。 |
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