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日本の家紋の起源は平安時代にあり、その後、およそ九百年にわたって洗練された図案の集大成は、その数約一万点に近く、日本人の美的感覚の凝縮した展開は、まさに日本の意匠の象徴であると思います。 その家紋の中に我愛すべき"すみれ"が展開されているか、興味をもち調べてみました。
植物はおよそ百種がモチーフとして図案化され、日本の紋章の大部分を占めています。紋章を見ていますと、こんなものまでと思われるものが取り入れられています。 例えば、りんご、ぶどう、桃、栗等は当然としても、大根、かぶら、唐辛子、なすび、茗荷、瓜(カボチャを含む)、かいわれと八百屋の店先を見ているようで、その屈託のない愛すべき展開はまさに敬服に値します。 花紋はその美しさから、当然多く図案化されており、その中に"すみれ紋"も見られ、使用家は江戸時代に大江氏流の毛利氏と増山氏がこれを用いています。最初にすみれを紋として取り入れた人は、やはりつつましくも可憐な、それだけに捨てがたい風情を愛してのことでしょう(と、すみれ愛好家としては思いたい)。
しかし、紋として展開されたすみれは、そのイメージが現物のすみれと比べますと乏しく、装飾的要素があるとしても、すみれの特徴が表現されておらず、資料を見ていましても、解説がなければ"すみれ"と見落としてしまうところです。 家紋は一家に一紋と思われますが、表紋(定紋・江戸時代には幕府に届出の正式の紋)、裏紋(替紋・非公式の紋)、女紋(女子が使用する替紋)など複数の紋が使用されており、毛利氏においても、一文字三星紋、おもだか紋を定紋として使用されていることを考えると、すみれ紋はそのイメージから、女紋として使用されていたのかも知れません。いずれにせよ"すみれ"が紋章として使用されていることは喜ばしいことです。
また、たんぽぽを紋として使用している"家"があり、現実には見られなかったと思いますが、裃にすみれ紋とたんぽぽ紋をあしらった侍が向かい合っている様など想像すれば、ほのぼのとして楽しくもあります。
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