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す み れ の 原 風 景
   
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 東京西部に拡がる多摩丘陵の西南端に位置する街に移って、早いもので30年になります。
引っ越してきた当時、時間ができると近くの丘陵地に足をはこび、季節ごとにそこに咲く野花を楽しみ、その美しさ、つややかさに魅了されていきました。
 とりわけ春は楽しく、芽吹いた雑木林の中や林縁に、フデリンドウ、クサボケ、ジュウニヒトエ、チゴユリ、そして今はほとんど目にしなくなったシュンラン、ヒトリシズカ、ホタルカズラ、エビネ、キンランなど短い散歩時間を充分楽しませてくれる花々が数多く咲いていました。
それらの野草にまじってすみれの花も多く見かけ、その種類の多いこと、すみれがそれぞれの環境を見つけて住み分けているのがおもしろく、だんだんすみれに興味をもつよぅになりました。


 
通っていたフィールドの近くに小さな石段があり、タチツボスミレやアカネスミレが目に入り、すみれに誘われるままに石段を登ると、小さな祠があり、さらに石段が続きます。
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登りつめると、何ともここちよい空間が拡がっていました。桜の木が数本、まさに満開で、花吹雪のなかに戦没者の慰霊碑がたっていました。
小さな広場で、その周りをよく手入れされた雑木林が囲んでいて、こころ安らぐ空間にぼんやりと時を過しました。仕事道をはさんで畑が見え、その向こうに刈り込まれた桑畑。そして、また雑木林へと続いています。

 「今でも蚕を飼っている人がいるのかな・・・・」と、桑畑に近づいてみると緩やかな南斜面が一面スミレ(マンジュリカ)で紫色に染まっていました。アカネスミレやタチツボスミレも見られましたが、実にみごとなスミレの大群落・・・しばしその場に立ち尽くしてしまいました。
その日は、石段を登って桜吹雪をくぐったところで、異次元の世界にスリップしたような、懐かしい、不思議なここちよさになり、スミレを見た後もその気分が続いたまま、この場所を離れました。

 以来、春になるとこの桑畑を訪れるのが楽しみで、毎年、スミレを堪能しました。いつも人一人会うこともなく、一人のんびりと「お花見」を楽しみました。
ある年、スミレを見ながらこの斜面を上がってきました。スミレばかり見ていたので、周りを気にすることもなくほぼまん中に来た時、いきなり足もとに人が倒れているのが目に入り、立ちすくんでしまいました。
「人が死んでいる !!!!!・・・」

・・・と、思ったのは・・間違いで、カバンを枕に、学校をサボって(?)昼寝をしている高校生が、人の気配に驚き目を開いていました。
誰も来ないと、のんびり寝っころがっていた彼と、誰も居ないと思い、夢中でスミレを追っていた私とがそこで出くわし、一瞬、気まずい空気が流れたけれど、彼はまた寝たふりをし、私も見ないふりをして、もう少しスミレを楽しみ、そっと桑畑を後にしました。それにしても、スミレの群落の中で昼寝とはうらやましいことです。

 翌年、この場所を訪れて本当に驚きました。
桑畑も、周りの雑木林もバブル期の開発は容赦なく、ブルトーザーで掘りおこされ赤土がむき出しとなり造成の波に飲み込まれてしまったのは残念でした。
一面のスミレが見られたこの場所と感動は、私のすみれ人生の原点であり、以後、春になると野や山に幻となったこの風景を求めて、すみれの自生地を訪ねていますが、桑畑でうけた感動以上のものは、永年、経験できないでいました。
それにしても、スミレの中で寝ていた彼も、その後、新しい寝場所を見つけたかな・・・・?



2001年・春
その日、朝からすみれを追っていた私は、夕方近くに小さな谷に迷いこみました。そこは、咲き競うすみれたちが谷をすみれ色に染めていました。夢や想像をはるかに超えた、現実のすみれの世界がそこにはありました。
春が笑った一瞬です。
 山に向かって 笑ってしまうほどの感動 !!
このHOME PAGEを創るきっかけになったすみれの自生地との出合いです。もう一度 すみれに興味をもち始めた頃の原点にもどり、すみれの魅力を伝えることができればと思っています ・・・


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