2001年・春
その日、朝からすみれを追いかけていた私は、夕方近くにはすっかり疲れてしまい、ある林道の入口に立っていました。
以前から地図の上で歩いてみたいと思っていた林道のひとつですが、下り道を戻ってくることを考えれば、少々ためらってしまいますが、アカネスミレ、タチツボスミレが風に揺れて私を林道へ誘います。
この道でのお目当てはマキノスミレですが、歩き始めてすぐに斜面で咲いているマキノスミレを見つけ、気分をよくして下り道を進みます。
やがて左手が開けて疎林の傾斜地となり、谷のようになり下に続いています。傾斜地の先はうっすらと藤色に煙り、花色からタチツボスミレの群落のように見えます。「また今度来た時にでも・・・」と、谷に降りるのを止め、林道のすみれを楽しみながら歩きます。やがて道は山を廻りこみ、先ほど見た谷間の下を横切っていました。水がしたたり落ち林道を濡らしています。谷に沿って湿った環境となり、林道に沿って歩くとマルバスミレやニョイスミレが見られます。斜面を登るとゲンジスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレなどが現れ、マルバタチツボスミレ(タチツボ
× ニオイタチツボ)の小さな群落も岩の前に揺れています。
帰る前に谷間に入って立ちつくしてしまいました。
「・ ・ ・ こんなところがあるなんて ・ ・」
そこは、これまで多くのすみれの咲く様を想像したり、夢に見たすみれのの世界ををはるかに超えた、現実のすみれの世界が目の前に広がっていました。
アカネスミレ、ゲンジスミレ、マルバスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、マルバタチツボスミレ、アケボノスミレ、マキノスミレ、そして、純白のタチツボスミレやピンクのニオイタチツボスミレが加わり、すでに花は終わっていますが、わずかですがヒナスミレ、イブキスミレ、アオイスミレも見られます。
それぞれのすみれの花がお互いに引立たせ、小さな谷間をすみれで埋めています。
咲き競うすみれたちが Violet Valley をすみれ色に染めています。
春が笑った一瞬です。山に向かって笑ってしまうほどの感動!!
人の手が入り明るくなった環境に、土の中に眠っていたすみれの命が一斉に目覚め2〜3年の時間が流れたのでしょうか。まさに桃源郷ならず菫源郷に迷いこんだ気分です。夕方近くであったため、急いですみれをカメラにおさめ、近くを改めて歩いてみました。小さな谷がもう一本。さらに上方も木が伐採され、すみれがたくさん見られます。
近くにこれまで通っていたヒゴスミレやクロバナアケボノスミレも見られるフィールドがあり、何とも魅力的なすみれの園です。
日本の自然もまだまだ捨てたもんじゃない。来年もう一度この地を訪れ、時間をかけてこの山を探索することを心に決め、谷をあとにしました。
日々、感動することもない生活ですが、すみれ人生三十数年にして初めてすみれに感動した一日でした。
すみれの花咲く谷での体験は、私をすみれに興味を持ちはじめたころの、素直にすみれの魅力を追いかけていた原点に戻してくれました。これまで楽しませてくれたすみれに感謝し、すみれの魅力を少しでも多くの方に伝えるべく、このホームページを創りました。
一人でも多くの方がすみれに興味をもち、すみれの世界に入ってくれることを願っています。
すみれの花咲く谷・Violet Valley すみれの花咲く谷間からすみれ色の風が、あなたへ届きますように!
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